今回ご紹介するのは、柚木麻子さんの短編集『ついでにジェントルメン』です。
読み終えたとき、言葉にするのが難しいのですが、胸の奥にうっすらとたまっていたものが、すっと軽くなるような読後感がありました。
「そう、これが言いたかった」という感覚が、静かに積み重なっていく本でした。
この記事では、ネタバレなしでその感覚をできるだけ丁寧にお伝えします。
「女性として、スカっとした気分になれる本を探している」「自分の気持ちをうまく言語化してくれる物語に出会いたい」そんな方におすすめの一冊です。
『ついでにジェントルメン』基本情報とあらすじ

著者の柚木麻子さんは、女性の生きづらさやたくましさを、ユーモアとリアリティを交えて描くことで知られる作家です。
代表作に『BUTTER』や『ランチのアッコちゃん』などがあり、アラサー世代の女性読者から厚い支持を集めています。
『ついでにジェントルメン』は、さまざまな場面を生きる女性たちの「本音」と「胸のすく瞬間」を切り取った短編集です。
高級鮨店、出版の世界、通勤電車——舞台は違っても、どの物語にも「そうそう、それが言いたかった」「その気持ちわかる」と思う場面が、さりげなく埋め込まれています。
短編集なので、1話ずつ区切って読み進めやすいのも特徴です。
まずは最初の1話だけ読んでみるつもりで、ページを開いてみてください。
読んで感じたこと|「私もそう思ってた」という言葉の連なり

正直に言うと、読み始めたとき、私は「気軽に読めるエンタメ小説」くらいの気持ちでいました。
でも気がつけば、予想以上にたくさんのことを考えさせられていました。特に印象に残った話について、ネタバレなしでお話しします。
「エルゴと不倫鮨」|静かな場所で、きちんと鳴らされる警鐘
本書の中で、個人的に一番好きだった話です。
落ち着いた雰囲気の高級鮨店に、ヨレヨレの服を着た、赤ちゃんをエルゴ(抱っこ紐のブランドです)で背負ったお母さんが登場します。
周囲の視線も、店の張り詰めた空気も気にするでもなく、ただ「やっと授乳から卒業できた」という開放感をまとって、店にやってきます。
そのお母さんの様子を読んでいて、言葉では説明しにくい「解放の温度」が伝わってくるような気がしました。
育児を経験したことのない私にも、その人が長い時間かけて積み重ねてきたものと、それをやっと手放せた瞬間の感覚が、不思議とリアルに想像できたのです。
その開放的で自由奔放な振る舞いと、時折知性を感じる言動のギャップに、私は引き込まれてしまいました。
そして、同じ店に来ている男性客の振る舞いへの視線——詳細はぜひ本書でご確認いただきたいのですが、そういった男性に対して女性の立場で覚える感情が言語化されています。大きな声でなく、でも確実に刺さる形で。
読んでいて、声には出さずに深くうなずいてしまいました。
「Come Come Kan! 」|覚悟を決めることの、かっこよさ
この物語の主人公は、出版の世界に関わる女性です。
自分の処女作が世に出るまでには、「これはものすごく長丁場になる」と腹を括る場面があります。
そのとき彼女は、誰かに背中を押されたからでも、言われたからでもなく、それが大変な道だとわかったうえで、自分の意思でやっていくと決める——そういう種類の覚悟でした。
それがシンプルにかっこいいと思いました。
私自身、やりたいことがあるとき、ついつい「周りにどう思われるかな」「うまくいかなかったら恥ずかしい」と、他者の目線が先に立ってしまうことがあります。
でもこの主人公は、自分の軸で進んでいくと決断していて、素直に真似したいと思いました。
「勇者タケルと魔法の国のプリンセス」|笑えるけれど、正直複雑な話
この話は、女性専用車両に堂々と乗り込む45歳の男性・タケルを主人公にしたものです。彼の言い分がとにかくストレートで、読んでいて思わず笑ってしまいました。
ただ、物語全体としては、私は少し複雑な気持ちで読みました。
女性の視点から見た「それってどうなの」という問いかけは確かにあるし、キャラクターの造形も面白い。
でも物語としての結論については、「うーん、それが答えなのか」と少し宙ぶらりんな感覚が残りました。
でもきっと、この話が一番刺さる、という方もきっといると思います。
菊池寛の「自分の目利き」を信じるかっこよさ
菊池寛(きくち かん)は、芥川賞・直木賞の創設者として知られる、明治から昭和にかけて活躍した文豪です。この本には、彼が登場する短編が2つあります。
菊池寛というキャラクターは、いわゆる聖人君子ではありません。癖もあるし、周囲からするとちょっと厄介な面もあります。
でも、「これは価値がある」と自分の審美眼で感じたものに対しては、世間の評価がどうであれ、向き合って投資する。その姿勢の筋の通り方が、単純にかっこいいと感じました。
自分がいいと思ったものに、少しずつお金や時間を使っていく——そういう生き方への憧れを、この話は静かに刺激してくれます。
なお、一部少しファンタジー的な設定があり、そこは好みが分かれるかもしれません。私も最初は少し戸惑いました。
でもキャラクターの魅力に引き込まれるうちに、その設定も自然と受け入れていました。
こういう「全話、手放しで好き」とは言えない正直な感想も含めてお伝えしたいのですが、それでも短編集の良さは、自分にぴったりくる話に出会えたときの喜びが格別なこと。
まずは最初の1話を読んで、自分に合う話を見つけてみてください。
こんな方におすすめ

- 女性として、スカッとした読後感を味わいたいとき
- 日常のもやもやを、誰かにうまく言語化してもらいたいとき
- 「自分の軸で生きている女性の話」に触れたいとき
- 仕事がルーチン化してきて、「このままでいいのかな」と感じているとき
- 柚木麻子さんの他の作品が好きな方
- 週末の一人時間を、充実した時間に変えていきたいと思っているとき
全話が完璧に刺さるとは限らない本ですが、だからこそ「この1話だけで読んでよかった」という発見が生まれる一冊でもあります。
まず気になるタイトルの話から読んでみてください。
まとめ|胸のすっとする読書を、日常のひとときに

柚木麻子さんの『ついでにジェントルメン』は、大きなカタルシスというより、「そうだよ、それでいいんだよ」という小さな肯定が静かに積み重なっていくような本でした。
読んでいて、思わず顔がほころんだ場面があったり、夜に読んでいて何かがじわっとほぐれていく感じがしたり。そういう読書でした。
一人の時間が増えてきたことを「寂しい」ではなく「自分を深める時間」に変えていきたいと思っている方に、特に手に取ってほしい一冊です。
どの形でも、この本との出会いがあなたの日常に小さな「すっきり」をプラスしてくれますように。

