西加奈子『うつくしい人』感想|他人の目が気になって疲れているあなたへ

読書

「他人の目を気にしてしまう」──そういう感覚、誰しも感じたことがあるのではないでしょうか?

今回は、西加奈子さんの『うつくしい人』を読んだ感想をお届けします。

実は以前も読んだことがあったのですが、そのときは主人公の百合に共感できなくて、「ちょっと大げさじゃないかな」と冷めた目で見ていたんです。

それが30歳を超えて読み直してみたら、百合の息苦しさがするりと腑に落ちてきました。

この記事では、本のあらすじと、30歳の私が感じたことをお伝えします。

あらすじ|瀬戸内の島へ、発作的に旅立った主人公の話

主人公の百合は、他人の目をひどく気にしながら生きているOLです。

ある日、会社のコピー機のそばで突然しゃがみこんで泣き出し、そのまま会社を辞めてしまいます。

そして半ば発作的に、瀬戸内海に浮かぶ香川の小さな島のホテルへ、5日間の一人旅に出る、というのがこの物語の出発点です。

島のホテルで百合が出会うのは、ふたりの個性的な人物。
デリカシーのないバーテンダーの坂崎と、ドイツ人のマティアス。

このふたりとの交流を通じて、ずっと張り詰めていた百合の心が少しずつほどけていきます。

薄くて短い作品なので、意外とサクッと読めてしまう一冊だと思います。

前半の息苦しさ|百合の生き方は、他人事じゃなかった

前半を読んでいて、正直しんどかったです。

百合の思考回路があまりにも息苦しくて、読んでいる自分まで胸が重くなってくるくらいでした。

百合は、他人の目が気になるだけではなく、「他人が、さらに別の他人からどう見られているか」まで想像してしまう人物です。

誰かに少し優しくされただけで「裏があるんじゃないか」と疑ったり、普通に仕事をしている人を見て「この人はきっと周囲の人から裏切り者だと思われているに違いない」と勝手に考えたり。

いつも他人の視線と評価のなかに生き、自分の感情より先に「どう見えているか」「社会の中でどうやってうまく立ち回るか」が来てしまう

最初に読んだときは「過剰すぎる」と感じていたのに、30代で読み直したら「ああ、私も似たことをしている」と気づいてしまいました。

程度感は百合ほどではないですが、他人の視線を先取りして、自分の気持ちを後回しにしてしまうことは、少なからず自分の中にある気がしています。

たとえば、職場でミスをしたとき。まず頭に浮かぶのは「どう謝って挽回していくか」ではなく、「周りにどう思われたか」だったりするなと。

夜寝る前にベッドの中でその日の出来事をぐるぐると反芻して、誰にも言えない言い訳を心の中でひとり積み上げていく──そんな時間が、私にもあります。

行間から、西加奈子さん自身がこれを書いていた当時に抱えていた葛藤のようなものも伝わってくる気がして、だからこそ着飾ることのない描写が心に届きました。

百合は過激すぎて深い共感はできなかったけれど、その気持ち自体は理解できる、というちょうどいい距離感が、リアルでした。

後半の坂崎とマティアス|変人ふたりが、百合の心をほどいていく

物語の後半に登場する坂崎とマティアスは、正直に言うと、現実にいたら「ちょっと意味がわからない人」に分類されそうなキャラクターです。

言動に脈絡がなく、デリカシーもなく、他人からどう思われるかを一切気にしていない。

でも、だからこそ百合の心を動かせたんだと思います。

百合はずっと、他人の視線という見えない壁のなかで縮こまって生きてきました。

ところが坂崎とマティアスは、その壁をまるで存在しないかのように振る舞う。傷つくことも、傷つけることも、あっけらかんと受け流していく。

そのそばにいるうちに、百合の中の「こうしなければ」「こう思われたら」というアンテナが、少しずつ静かになっていくんです。

読みながら、なんだか自分まで肩の力が抜けてくる感覚がありました。

「こういう存在に触れることで、自分のなかにある固定観念に気づける」という設計になっていて、こんなキャラクター、よく思いつくなと純粋に感心しました。

心に残ったフレーズと、西加奈子さんがこの本で伝えたかったこと

この本を読んで、特に心に残ったフレーズがあります。

「人生は、私が思うほど悪意には満ちていない、難しいものではないのではないか」という一文です。

私たちは、知らず知らずのうちに「人生は難しい」「人間は怖い」という前提で生きている瞬間があると思います。

でも実際は、そこまで複雑じゃないかもしれない。悪意を先読みして防御線を張り続けることで、かえって自分を疲弊させているだけかもしれない。

そのくらい楽観的に構えた方が、生きやすいよなと深く共感しました。

西加奈子さんが『うつくしい人』を通して伝えたかったのは、「他人の目を気にするのをやめなさい」という強いメッセージではないと思います。

もっとやさしい言い方をするなら、「自分がどう感じるかを、もう少しだけ大切にしてもいいよ」ということではないかな、と私は解釈しました。

まとめ

西加奈子『うつくしい人』は、他人の目に疲れたすべての人に読んでほしい一冊です。

20代で読んだときは「共感できない」と感じたのに、30代で読み直したら百合の苦しさがすとんと腑に落ちました。

それだけ、年齢を重ねるごとに「他人の視線」をより意識するようになっているということかもしれないし、逆にそれを意識している自分に気づくようになったということかもしれないです。

この本が伝えてくれるのは、「他人の目をゼロにしろ」ではなく、「自分の感覚をもう少しだけ信じてみて」というやさしいメッセージ。

短い物語のなかに、そのエッセンスがぎゅっと詰まっています。

ぜひ手に取ってみてください。

きっとどこかのページで、「私もそう思ってた」と感じる瞬間があるはずです。

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