原田マハ『異邦人』レビュー|美への執着と京都の濃さに、心が震えた。

読書

原田マハさんの小説を読むたびに思うんですが、この方の作品は読み終わったあとに「あ、美術館に行きたい」とか「あの街を歩きたい」という気持ちが自然と湧いてくるんですよね。

今回の『異邦人(いりびと)』も、まさにそれでした。

今回の記事では、こんなことをお話しします。

  • 『異邦人』のあらすじと基本情報
  • 読んで感じた「美への共鳴」と「京都の濃さ」
  • こんな人に特におすすめしたい、という話

ネタバレはしないように書いているので、これから読む方はぜひ参考にしていただけると嬉しいです。

『異邦人(いりびと)』ってどんな本? まずあらすじから

著者は原田マハさん。

アート小説の第一人者として知られ、『楽園のカンヴァス』や『たゆたえども沈まず』など、美術と人間の物語を描き続けてきた作家です。

『異邦人(いりびと)』は、東京から京都へとやってきた主人公・菜穂が、街の空気に深く引き込まれながら、アートやアーティストたちと運命的な出会いをしていく物語です。

タイトルの「異邦人」は、「いりびと」と読みます。

これは京都の言葉で、京都以外の土地で生まれ、京都に入ってきた人のことを指すのだそうです。

読むまで知らなかったのですが、この言葉を知った瞬間、タイトルの意味が一気に立体的になりました。少し冷たい響きもありますよね。

でも、だからこそ京都の文化や独特の雰囲気が、何百年も形を変えずに残ってきたのかもしれない。

そんなことを考えながら読み進めていました。

気になった方は、まず手に取ってみてください。紙の本でゆっくり読むのも、Kindleでどこでも読めるようにするのも、どちらもおすすめです。

美術品が「刺さる」感覚|菜穂の眼差しに、自分を重ねた

この小説で最初に「あ、わかる」とすごく共感したのが、菜穂の美術品に対する感覚の描写でした。

「美術品を目にして、心に刺さるあの感じというのは、いったいどこからやってくるのだろう」

本文より引用

菜穂はこんなことを感じながら作品と向き合っているとのこと。

まさに私が美術館に行くたびに思っている感覚と同じでした。

美術の知識がなくても、なぜかある一枚の前で足が止まる。
解説を読んでも「なるほど」とはなるけれど、そもそも最初に引き寄せられた理由は説明できない。

その正体不明の「刺さる」感覚を、菜穂も同じように持っていて、そこにとても共感しました。

ただ、菜穂の美への向き合い方は、読み進めるうちに「共感」だけでは追いきれなくなってきます。

菜穂のそのアートやアーティストへの執着は、後半になるにつれてどんどん強さを増していって、正直、怖いと感じる瞬間もありました。

美しいものへの純粋な愛情が、ある種の狂気と隣り合わせにある。

その描写が鋭くて、読みながら背筋がぞわっとする感覚さえあります。

もし「美術館に行っても、自分はちゃんとアートを楽しめているのかな」と感じたことがある方には、菜穂の眼差しがきっと刺さると思います。

京都の小説だとは思っていなかった|予想を超えた「街の濃さ」

正直に言うと、読み始める前はアート小説だと思っていて、京都がここまで前面に出てくる作品だとは思っていませんでした。

でも読み進めるうちに、どんどん京都の空気に飲み込まれていきました。

蒸し暑い夏の路地、初夏の緑のにおい、茶道・書道・華道・香道……

京都に脈々と受け継がれてきた文化が、丁寧に、でも押しつけがましくなく描かれていて、文章を読みながら体感温度が変わるような感覚がありました。

特に印象的だったのが、菜穂が滞在する家の家主・せんさんや、書道の生徒さんたちの佇まいです。

何か予想外のことが起きても、動じない心の余裕がある。

言葉遣いや所作のたおやかさが文章からにじみ出ていて、読んでいるだけで背筋が伸びる気がしました。

「こういう雰囲気を、私もいつか身にまといたい」と思いました。

この本を読んでから、「夏の京都に行きたい」という気持ちが強くなりました。

暑くてもいいから、蒸し暑い空気の中で、石畳を歩いてみたい。

読書がそういう旅への扉になるのが、原田マハさんの作品の好きなところです。

アート小説であり、夫婦の物語でもある

『異邦人』は、アート小説や京都小説として語られることが多いのですが、読んでみると夫婦の物語としての側面もとても丁寧に描かれていました。

菜穂と、夫・一輝との関係は、一言で説明するのが難しいくらい複雑で、正直浮世離れしているくらいですが、お互いの感情の機微が細かく書かれています。

「この二人、本当に大丈夫なのかな」と思いながら読んでいると、菜穂のある決断がすべてを変えていく。

その流れが、彼女の京都への深い執着と重なって、物語全体に厚みを与えていると感じました。

アートの話だけを期待して読むと、人間関係の繊細さに少し驚くかもしれません。
でもその予想外さが、この作品の豊かさだと思っています。

「最近、小説で感情を動かされていないな」と感じている方に、特に手に取ってほしいです。

こんな人に読んでほしい

最後に、この本が特に刺さりそうな方をまとめてみました。

  • 原田マハさんの作品が好きで、まだ読んでいない作品を探している
  • 美術館に行くのは好きだけど、「ちゃんと楽しめているのかな」と感じることがある
  • 京都という街に、なんとなく惹かれている
  • 茶道・書道・華道など、日本の伝統文化に興味がある
  • 週末に一人でゆっくり読める、読み応えのある小説を探している

どれかひとつでも当てはまったら、きっと合うと思います。

まとめ:京都と美術と、心が動く読書体験を

原田マハさんの『異邦人』は、アート小説でもあり、京都小説でもあり、ひとりの女性の人生を描いた物語でもありました。

美しいものに「刺さる」感覚の正体を、菜穂と一緒に探しながら読んでみてください。

読み終えた頃には、きっと京都に行きたくなっているはずです。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

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