原田マハ『スイート・ホーム』レビュー|アラサーの心にじんわり染みる家族と恋の物語

読書

今回の記事の内容

  • 原田マハ『スイート・ホーム』はどんな本か(ネタバレなし)
  • アラサー目線で感じたリアルな読書感想
  • この本が刺さる人・少し物足りない人の違い

先日読んだ、原田マハさんの『スイート・ホーム』。

劇的な展開はないけど、読み終えたあとにじんわりと胸が温かくなる。
そんな不思議な余韻を持つ一冊でした。

ネタバレなしで、アラサーOL目線の正直な感想をまとめます。

原田マハ『スイート・ホーム』はどんな本?

主人公は、香田陽皆(こうだひな)という28歳の女性。雑貨店に勤める、少し引っ込み思案なタイプです。

彼女の家族は、地元で愛される小さな洋菓子店「スイート・ホーム」を営む職人気質の父、明るくて頼もしい”看板娘”の母、そして華やかで積極的な妹。

4人で暮らす、温かな家族のお話です。

形式は連作短編集。ひとつひとつの物語は独立していますが、すべて同じ世界でつながっています。

読み進めるうちに登場人物たちの時間の流れが見えてきて、気づけばスイート・ホームの常連になったような気持ちになっています。

連作短編集という、特別な読み心地

「長い小説を読む集中力は今日はないけど、何か読みたい」という日ってありますよね。

連作短編は、そういう気分のときにちょうどいいと思っています。

1話ずつ区切って読めるのに、物語全体を通して流れる時間の厚みがある。単なる短編集とは違う、深みがあります。

気が向いたら1話だけ、週末にまとめて読む、どちらのスタイルにも合う一冊です。

まずは書店で手に取って、冒頭だけ立ち読みしてみてください。きっと続きが気になります。

ちなみに、原田マハさんといえば『暗幕のゲルニカ』や『楽園のカンヴァス』のようなアート小説のイメージが強い方も多いと思います。

だからこそ、この本を読み始めたとき、そのテイストの違いに少し驚きました。

アートも美術館も出てこない、静かな日常の物語。でも原田マハさんが書く恋愛小説は、あたたかくて、心地よくて、アート小説とはまた違う引力があると思います。

読んでみて感じたこと|アラサー目線のリアルな感想

主人公・陽皆に、親近感がわいた

読み始めてすぐ、28歳で恋愛が少し奥手な陽皆に、なんとなく親近感がわきました。

同世代ということもあって、「アラサーあるあるだよな」と思うシーンが何度か出てきくるんです。

好きな人への気持ちをなかなか言葉にできない心の動きも、大げさに描かれているわけではないのに、妙にリアルで。
こういう感覚、覚えがある気がして、つい引き込まれてしまいました。

恋愛だけでなく、仕事への向き合い方や家族との距離感も、描かれています。

とくに印象的だったのが、陽皆が無意識のうちに受け継いでいる父親のクセ。

お客様を丁寧にお見送りするという何気ない習慣が、ある出来事を引き寄せていくのですが、「日常の積み重ねが、縁をつくるんだな」と思いました。

派手さはなく、地味といえば地味な物語かもしれません。

それでも読み終えたあと心が温かくなります。華やかではないけれど、温かい。そういう物語が、今の自分には心地よく感じました。

ドラマチックじゃないから、リアル

結婚を意識した恋愛、家族との向き合い方、大切な人との出会い。

この本に描かれている出来事は、どれも「よくある日常」の延長線上にあります。それなのに、ページをめくる手が止まらないのはなぜなのか。

たぶん、「ドラマチックじゃないこと」そのものが、私たちに刺さるからだと思いました。

SNSでは誰もが輝いていて、恋愛も仕事もうまくいっている人ばかり目に入る毎日。

その中で、「地味でも、ちゃんと幸せ」な物語は、じんわりとした安心感をくれます。

登場人物たちの人生のライフステージが変わるにつれて、引っ込み思案だった陽皆の印象も変わっていきます。

出会い、恋愛、結婚、出産——そういった経験が人を変えていく様子が、描かれているのも好きでした。

「家族っていいな」と、素直に思えた

この本のもうひとつの大きなテーマが、家族です。

家族愛、家族との絆、そして家族との向き合い方。

人が生きていくうえで避けて通れない「家族」というテーマが、丁寧に、やさしく描かれています。

なんでも親や兄弟に相談できて、お互いを応援し合って、食卓を囲んで笑っている、あの穏やかな空気感。

そういうシーンが何度も登場してきて、胸の奥がじんわりと温かくなりました。

「こんな家族をいつか自分でつくれたらいいな」と、素直に憧れる自分がいました。

現実的かどうかはさておき、そう思わせてくれる物語の力が、この本にはあります。

この本が刺さる人・少し物足りない人

こんな人にはぜひ読んでほしい

この本がとくに響くのは、こんな人だと思います。

  • 周りの友人の結婚・出産ラッシュに、複雑な気持ちを抱いている
  • 家族との関係をもう少し丁寧に考えてみたい
  • 「穏やかで温かい恋愛」に憧れがある
  • 疲れたときに、ほっとできる読書がしたい

登場人物は、みんなすっごくいい人ばかりです。
ご近所さんも家族も、お互いを思いやる関係性が随所に描かれています。

「現実はそんなに甘くない」と思う部分があるのも正直なところですが、それでも、こういう関係性をいつか自分もつくってみたい——そんな、優しい憧れを抱かせてくれます。

ハラハラドキドキを求めている人へ

「恋愛小説なら、劇的な展開やすれ違いがほしい」というタイプの方には、少し物足りないかもしれません。

本書には大きな事件もどんでん返しもなく、静かに時間が流れていきます。

でもこれが、『スイート・ホーム』の良さ。

もし「もう少しドラマティックな原田マハ作品が読みたい」なら、『暗幕のゲルニカ』や『リーチ先生』もおすすめです。

ジャンルは違いますが、読み応えがあります。

宝塚の街と、スイート・ホームの空気感

この本を読んで、もう一つ強く印象に残ったのが「場所」の描き方です。

バスに乗って、バスを降りて、スイート・ホームへ向かう道。
歩くうちに、徐々に甘い香りが漂ってくる——そんな描写を読んでいると、自分もその道を歩いているような気分になります。

焼きたてのタルトやフィナンシェの、バターと小麦の混ざり合った温かな匂い。想像するだけで、行きたくなりました。

宝塚という街の、高台からの眺望や緑の多い住宅街の雰囲気も、とても丁寧に描かれています。
読み終えたとき、「実際に行ってみたい」と思いました。

また、登場するお菓子や料理の描写も見逃せません。

季節に合わせたスイーツ、手作りの料理、食卓の風景。

読んでいるうちに、洋菓子屋さんへ行って何かひとつ買って帰りたくなるような気分になります。

まとめ

原田マハ『スイート・ホーム』は、派手さはないけれど、読み終えたあとに「家族や人とのつながりを大事にしたい」と静かに思わせてくれる一冊でした。

  • 連作短編ならではの、時間の流れを体感できる読み心地
  • 主人公・陽皆の物語に、アラサーとして親近感がわく
  • 家族・恋愛・日常をドラマチックでなく、丁寧に描いている
  • 宝塚の街の空気感と、食の描写がとにかく豊か

忙しい毎日の中で、周りの人や自分の暮らしときちんと向き合えているか。

そう問いかけてくれるような、静かで優しい物語です。

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