今回ご紹介するのは、原田マハさんの短編集9冊です。
短い物語の中に、人生のある一瞬がぎゅっと凝縮されていて、読み終えたあとの余韻がとにかく豊か。
アートを軸にした作品から、家族の温かさを描いた作品、そしていつもとは全く違うダークな世界まで、バリエーションも豊富です。
どの1冊から手に取るか迷っている方の参考になれば嬉しいです。
- 原田マハの短編集を9冊まとめて紹介
- 美術×人生を描く作品から、家族の温かさ・人間の狂気を描く作品まで幅広く網羅
- それぞれの読後感や、どんな方に向いているかを正直にレビュー
①常設展示室|美術館に行きたくなる、人と絵の出会いの物語

人と絵の「出会い」と「再会」を描いた、6つの短編からなる作品集です。
どの物語も、美術館という場所を舞台に、誰かの人生がそっと動き出す瞬間を丁寧に切り取っています。
子どもがピカソの絵と純粋に向き合うシーンが、特に印象に残っています。大人が理屈で考えてしまうところを、子どもはただ感じる。
その描写を読んでいると、難しいことは考えずに、純粋な気持ちで絵と向き合いたいと感じます。
MoMAで働いている女性が登場する物語もあり、そこに至るまでの努力を想像して、「自分の好きなことに、ここまで本気になれたら」と胸を打たれました。
そして一番心に刺さったのは、一人の女性が自分の軸を取り戻し、前を向いて歩き始める物語。
仕事や人間関係の中で自分らしさを見失いかけているとき、静かに背中を押してくれる物語です。
②モダン|MoMAという場所が好きになる、美術館の「裏側」を覗く5編

ニューヨーク近代美術館・MoMAで働く人たちを主人公にした5つの短編集です。
美術館の「お客さん側」ではなく「働く側」にフォーカスした物語なので、MoMAという場所への親しみが一気に深まります。
原田マハさんの長編『楽園のカンヴァス』と世界観がつながっている部分もあり、ファンにとってはニヤリとできる場面も。
わたしが特に好きだったのは、『わたしの好きなマシン』という物語です。
MoMAの初代館長アルフレッド・バーと、幼いころに彼と出会った女性ジュリアの話。
MoMAが「機械やマシン」をアートとして展示する展覧会を開催し、そこに訪れたジュリアが工業デザインとアートの世界に魅了されていく様子が描かれています。
当時、機械をアートとして展示することへの批判的な声もあったはずです。
それでも独自の視点で価値を見出し、展覧会を実現させたMoMAの姿勢が、読んでいてとても刺激的でした。
アートに正解はなく、解釈の幅が無限にあるからこそ面白い、とあらためて実感できる作品です。
③〈あの絵〉のまえで|立ち止まっていた人が、また歩き出す物語

「あの絵」との出会いによって、何かに行き詰まっていた人が再び動き出す。そんな物語が丁寧に綴られた短編集です。
短い物語の中に、感動とほっこりした温かさが両方詰まっています。
読後感がとにかく穏やかで、読み終えた夜はなんとなく気持ちよく眠れるような感覚になれます。
また、物語の中で題材となっている実在の絵が登場するので、「この絵、実際に見に行きたい」という気持ちが自然に湧いてくるのも、原田マハさんの作品ならではの魅力です。
どの物語にどの絵が出てくるのかは、この本だけの記事に美術館ごとにまとめています。
④ジヴェルニーの食卓|実在した画家たちに会いにいく4つの物語

画家というと、遠い世界の人だと思っていました。
『ジヴェルニーの食卓』は、その距離をふっと縮めてくれた4編です。マティス、ドガ、タンギー爺さん、モネが登場します。
画家自身ではなく、そばにいた誰かの視点から描かれているのが特徴です。マティスの手紙にはユーモアがにじみ、ドガの追求心には狂気に近いものすら感じます。
なかでも心に残ったのは、絵具代の代わりに絵を引き取ってまで画家たちを支えた、タンギー爺さんの懐の深さでした。
モネの晩年を描く一編は、料理と庭の匂いに包まれているような読み心地です。読み終えたあと、無性に印象派の絵が観たくなりました。
印象派の絵に興味がある方なら、画家その人を知る入り口としてちょうどいい4編です。
マティスの手紙も、モネの食卓も、好きな場面を1編ずつ書き出した記事があります。
⑤スイート・ホーム|「家族」を静かに描いた、心が温まる1冊

他の8冊とは少し異なり、アートではなく「家族」をテーマに描かれた短編集です。
舞台は宝塚にある小さな洋菓子店。その店を中心に、さまざまな人の物語が静かに展開されていきます。
ハラハラドキドキの展開を求めている方には、少し物足りないと感じるかもしれません。
でも、読んでいてじわじわと胸が温かくなる感覚は、この作品ならではのものです。
親や兄弟に何でも話せて、笑い合えて、応援し合える家族の雰囲気。
読み終えたあとに「家族っていいな、わたしもこういう関係を大切にしていきたいな」という気持ちが静かに芽生えてきました。
原田マハさんのアート系作品が好きな方にも、ぜひ違う顔を知ってほしい1冊です。
読んだあとは、しばらく連絡していなかった家族や友人に、ふとメッセージを送りたくなるかもしれません。
⑥あなたは、誰かの大切な人|家族の絆をそっと描いた6つの物語

積読の中に埋もれていたのが、『あなたは、誰かの大切な人』でした。講談社文庫で6編、本自体が薄く、一編ずつも短いつくりです。
6編はどれも、家族や身近な人との関係を描いています。「最後の伝言」では、告別式の日に姿を消した父の記憶をたどるうちに、知らなかった夫婦の絆が見えてきます。
「月夜のアボカド」では、79歳・69歳・39歳という3人の女性が描かれ、結婚だけが正解ではないと感じさせてくれます。
読み終えてすぐ、母に連絡したくなりました。年代を問わず女性におすすめしたい、静かな一冊です。
6編それぞれのあらすじと、母に連絡したくなった理由は、こちらの記事に書きました。
⑦独立記念日|自分の殻を破って歩き出す24の物語

『独立記念日』に収められているのは、さまざまな年代・境遇の女性たちを描いた24編です。もとは『インディペンデンス・デイ』というタイトルで刊行されていました。
文庫版の表紙は、ゴッホが生まれたばかりの甥へ贈るために描いた《花咲くアーモンドの木の枝》です。
収録作「真冬の花束」には、「命を燃やして生きろ」という言葉が出てきて、静かに背中を押されました。
DVから離れられない女性や、30歳を目前に焦る女性など、24編それぞれのしがらみから少しずつ自由になっていく物語です。
長編小説はまだハードルが高い、と感じている方にも向いています。1話あたり15ページほどなので、通勤電車の中でも少しずつ読み進められます。
24編の中から気になる一編を探すなら、独立記念日だけのレビュー記事もどうぞ。
⑧星がひとつほしいとの祈り|年代も立場も違う女性たちの全7話

本棚に一度読んだきりだった『星がひとつほしいとの祈り』を、久しぶりに読み返しました。実業之日本社文庫から出ている、全7話の短編集です。
表題作で描かれるのは、目の不自由なお嬢様に仕えた女中ヨネの献身です。自分の目となり、杖となってくれた存在だった、とお嬢様が振り返る場面に胸を打たれました。
「長良川」の主人公は、去年は亡くなった夫と訪れた川を、今年は娘とその婚約者と旅しています。夫と過ごした回想は派手ではないのに、ちゃんと幸せな時間だったのだと伝わってきます。
短編ごとにきちんと完結しているので、寝る前のわずかな時間でも区切りよく読み切れます。いろんな年代の女性が主人公なので、女性の読者にこそ響くはずです。
もう一編、土佐弁の一節が印象に残る「沈下橋」については、レビュー記事のほうで触れました。
⑨黒い絵|いつもと違うマハさんに出会いたい人へ。初のノワール短編集

原田マハさん初の「ノワール(暗黒)小説」です。
(わたしは最初、ルノワールと読み間違えていました……。)
6編の短編集で、どの物語にも人間の狂気や欲望がにじんでいます。
読んでいて気分がすっきりするような作品ではなく、どこか居心地の悪い空気感が最後まで漂っています。
でもなぜか、手が止まらない。
いつもの原田マハさんとは明らかに違うトーンなのに、読み始めたらあっという間に6編を読み切ってしまいました。
「もう一度読みたいか」と言われると正直迷いますが、「原田マハさんってこんな世界も描けるんだ」という新鮮な驚きを味わえました。
原田マハさんの作品をある程度読んできた方、いつもとは違う読書体験をしてみたい方におすすめの1冊です。
読む前に「ちょっとダークな気分でもいいか」と自分の心と相談してから手に取るのがいいかもしれません。
まとめ|あなたの今の気分に合う1冊を

今回ご紹介した9冊をあらためてまとめます。
- ①常設展示室:人と絵の出会いを描く6編。自分らしさを取り戻したいときに。特に女性におすすめ。
- ②モダン:MoMAの裏側を覗ける5編。原田マハファンにも嬉しい1冊。
- ③〈あの絵〉のまえで:読後感が穏やか。美術館に行きたくなる。
- ④ジヴェルニーの食卓:実在した画家たちの人間味に触れる4編。読むと絵に会いたくなる。
- ⑤スイート・ホーム:アートではなく家族の物語。静かに心が温まる。
- ⑥あなたは、誰かの大切な人:家族との何気ない絆を描く6編。読後、大切な人に連絡したくなる。
- ⑦独立記念日:しがらみを抱えた女性たちが、少しずつ自由になる24編。
- ⑧星がひとつほしいとの祈り:年代も立場も違う女性たちの全7話。寝る前にも読める。
- ⑨黒い絵:ダークで新鮮。原田マハさんの別の顔を知りたい方に。
気分が上向きなときも、少し疲れているときも、その日の自分の状態に合わせて1冊選んでみてください。
短編集は、自分のペースで読み進められるのが良いところだと思っています。
まずは気になった1冊を、週末のお供にしてみてはいかがでしょうか。










