原田マハ『モダン』あらすじと感想|MoMAで働く人たちの、5つの短編

原田マハ「モダン」 アートに出会う本

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書店で原田マハさんの棚の前を通ると、つい足を止めてしまいます。その日に目が留まったのは、表紙の絵でした。

マティスの《ダンス》が、大きく使われていたんです。輪になって踊る人たちの、あの絵です。

手に取ってページを開くと、舞台はニューヨーク近代美術館、通称MoMA。そこで働く人たちを描いた、5つの短編集でした。

実はMoMAには行ったことがあるので、あの館内を思い出しながら、ページをめくりはじめました。

美術館の仕事を垣間見られる物語ばかりで、ファンとしては嬉しくなる一冊でした。

『モダン』はどんな本?|MoMAで働く人たちの5つの短編

舞台は、ニューヨーク近代美術館(MoMA)

マティス「ダンス」

『モダン』が描くのは、世界的に知られたこの美術館の内側です。そこで働く人たちの目線から、5つの物語が語られていきます。

主役になるのは、学芸員や警備員など、美術館を支える人たちです。展示室の奥で何が起きているのか、想像したことのなかった視点でした。

収録されているのは、こんな5編

収録されているのは、次の5編です。

  • 「中断された展覧会の記憶」
  • 「ロックフェラー・ギャラリーの幽霊」
  • 「わたしの好きなマシン」
  • 「新しい出口」
  • 「あえてよかった」

共通しているのは、どれも美術館という場所が物語の芯にあることでした。

いちばん好きだったのは「わたしの好きなマシン」

公園で読書している手元

マシンは、アートになるのか

5編のなかでいちばん好きだったのは、「わたしの好きなマシン」でした。MoMA初代館長のアルフレッド・バーと、幼いころに彼と出会った女性ジュリアをめぐる物語です。

作中でMoMAは、機械やマシンをアートとして展示する展覧会を開きます。ジュリアはそこに両親と足を運んだ、と語られていました。

その展覧会が、ジュリアが工業デザインやアートに惹かれていくきっかけになったそうです。幼いときに見たものが、その後の人生を静かに方向づけていく様子が印象的でした。

アートに、正解はない

当時は「マシンなんてアートではない」という批判の声もあったのだと思います。

それでも独自の視点で価値を見出し、展覧会を開いてしまうMoMAの姿勢が、なんだか面白いと感じました。

アートの解釈には正解がないんだと、あらためて思わされました。

同じマシンを見ても、人によって感じ方はまったく違います。それこそが、アートの面白いところだと思うんです。

美術館そのものが舞台になった短編集なら、マハさんにはもう1冊あります。

思わず書き留めた一文|「ロックフェラー・ギャラリーの幽霊」より

読書している手元

逆方向の電車に乗ってみたくなる、あの衝動

もうひとつ心に残ったのが、「ロックフェラー・ギャラリーの幽霊」という短編です。主人公はMoMAの警備員、スコットでした。

スコットの経歴が語られる場面で、思わず共感した一文があります。

「いかなる人間であれ、人生に一度くらいは、いつも乗っている通勤電車には乗らず、反対側のプラットホームに入ってきた逆方向へ行く電車に乗り込んでみたいという衝動にかられるのではないか。」(原田マハ『モダン』文藝春秋)

この感覚、大多数の人が一度は思ったことがあるんじゃないかと思います。

マハさんも同じように感じたことがあるんだと分かって、なんだか嬉しくなりました。

こういう、思わず頷いてしまう一文に出会えるのも、小説を読む楽しみのひとつだなと感じます。

警備員の仕事は、絵を観ることじゃない

主人公のスコットは、MoMAで働く警備員です。

作中には、警備員の仕事は絵を観ることではなく、怪しい人がいないか「人を見る」ことだと書かれていました。

わたしだったら、つい絵のほうを観てしまいそうです。作品のすぐそばにいられるのは嬉しいけれど、アートが好きな人にとっては、なかなか難しい仕事なんじゃないかとも思いました。

それでも、そうした人たちに作品の安全が守られているんだと、あらためて実感しました。

中断された展覧会の記憶|アートの力を感じた一編

美術館で絵を観ている女性

「中断された展覧会の記憶」は、MoMAから福島のある美術館に貸し出されていた一枚の絵、《クリスティーナの世界》をめぐる物語です。

物語の背景にあるのは、東日本大震災です。アートの力、海外から見た当時の日本、被災地に暮らす人たちの葛藤など、アートのことだけではない、いろんなことを感じさせられる一編でした。

扱っているものを思うと、重い話なのかもしれません。それでも読み終えたあとに残ったのは、心があたたかくなる感触でした。

読んだあとの、小さな変化

美術館で絵を観ている人たち

『モダン』を読んで、アートへの関わり方は、本当にさまざまなんだと感じました。

作品をつくる人、鑑賞する人だけがアートに関わっているわけではありません。

学芸員や警備員のように、そばで支える人たちもいます。アートへの感じ方も、考え方も、関わり方も、人それぞれなんだということを、この本で垣間見られた気がします。

『モダン』も含めて、マハさんの短編集をまとめた記事があります。

こんな人におすすめ

MoMAに行く予定がある人

本棚から本を取ろうとしているところ

いちばんおすすめしたいのは、これからMoMAへ行く予定がある方です。

わたしは読む前に行きましたが、先にこの本を読んでいたら、同じ展示室でも見え方が違ったはずだと思います。どこに目を向けるかが、少し変わりそうです。

もちろん、すでに行ったことがある方にも。あの広さを思い出しながら読むと、物語のなかの景色が少し近くなります。

アートが好きな人、マハ作品を追っている人

アートが好きな人にも、もちろんおすすめです。原田マハさんの作品には、実在の画家や美術館がたびたび登場します。

表紙のマティスといえば、『ジヴェルニーの食卓』にも登場していました。同じ画家が違う作品のなかで描かれるのも、シリーズを追う楽しみのひとつです。

むすび|週末に、1編ずつ

美術館で絵を観ている女性

短編集なので、週末に1編ずつ読むのがちょうどいい気がします。

1話読み終えるごとに、少し違う美術館の一面が見えてくるからです。

気になった方は、ぜひ手に取ってみてください。わたしも、また読み返したい一冊です。

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