週末、美術館に足を運ぶのが好きです。印象派の絵の前でぼんやり足を止めて、「この画家はどんな人生を送ったんだろう」と考える。
そんな時間を重ねるうちに出会ったのが、原田マハさんの小説でした。
最初にどの作品を手に取ったのか、正直よく覚えていません。でも『リボルバー』を読んだ夜のことは、今でもはっきり覚えています。
ゴッホを撃った銃の真偽をめぐる謎解きに引き込まれて、気づいたら深夜まで一気読みしていました。
それからというもの、書店で原田マハさんの名前を見かけると、つい手が伸びるようになりました。
実在の画家や美術品をめぐるアート小説はもちろん、時には犯罪や人間の暗い面を描く「ノワール小説」や、ホームドラマ寄りの作品まで。気づけば17冊以上も読んでいました!
この記事では、これまで読んだ17冊を、雰囲気やテーマ別にタイプ分けしてご紹介します。
それぞれ個別にレビュー記事も書いているので、気になった作品があれば、あわせて読んでみてください。今のあなたに合う1冊が、きっと見つかるはずです。
原田マハ作品のタイプ別マップ

まずは、17冊をどんな軸で分けたかをざっとまとめておきます。
- アート小説(6冊) 実在の画家や美術品を軸に、史実とフィクションが交差する物語
- 短編集(5冊) サクッと読めて、じんわり心に残る物語の詰め合わせ
- 史実にインスパイアされた人生小説(2冊) 明治時代を舞台に、信念を貫く女性たちを描いた物語
- お仕事・人生を後押しする物語(4冊) 今を生きる女性たちに、地に足のついた元気をくれる物語
それぞれ、読んだときに感じたことを短くまとめました。
アート小説|実在の画家・美術品をめぐる物語

原田マハさんといえば、まずこのタイプを思い浮かべる方も多いと思います。
実在した画家やアーティスト、実際に起きた出来事を下敷きにしながら、フィクションとして再構築していく作品群です。
アートに詳しくなくても、物語を追ううちに自然と作品や画家に興味が湧いてくるのが不思議なところです。
デトロイト美術館の奇跡
100ページほどの短い物語ですが、財政破綻したデトロイト市で美術品売却の危機が浮上した実話を背景に、美術館に縁のある人々の思いが積み重なっていきます。
亡き妻の面影を絵に重ねる老人フレッドの背中が、今でもふと目に浮かびます。
アートに詳しくなくても大丈夫です。むしろ知らない人ほど、すっと引き込まれる一冊だと思います。
リボルバー
「これはゴッホを撃った銃です」という証言から始まるアートミステリーです。
パリのオークション会社に勤める主人公が銃の真偽を追う現代パートと、19世紀のゴッホとゴーギャンを描くパートが絡み合います。
ゴーギャンという画家の知らなかった顔に引き込まれ、夜更かしして読んでしまいました。
美術史の知識がなくても心配いりません。むしろ知らないからこそ、ゴーギャンの人生に驚けるはずです。
アノニム
ジャクソン・ポロックの幻の傑作をめぐって、謎の集団「アノニム」と香港の高校生が動き出す一冊。
オーシャンズ映画のようなチームのワクワク感があって、まるで字幕を追いながら映画を観ている気分になりました。
アートよりも先に、チームでミッションに挑む高揚感を味わいたい方には、特におすすめです。
暗幕のゲルニカ
ピカソの「ゲルニカ」を軸に、2003年のニューヨークと1937年のパリという2つの時代が交錯する物語です。
アートが政治や戦争と地続きにあること、アートの力の大きさを、これほど実感させられた作品はありませんでした。
世界のニュースがどこか他人事に感じている方に、そっと薦めたい一冊です。
風神雷神
舞台は戦国時代の日本。絵師・俵屋宗達と、戦国時代にヨーロッパへ渡った少年使節団「天正遣欧少年使節」のひとりである原マルティノを軸に、日本とヨーロッパが「絵」というテーマでつながっていきます。
読み進めながら、久しぶりに歴史の教科書を開きたくなりました。
堅苦しくない歴史小説を探しているなら、まずこの一冊から入ってみてください。
異邦人(いりびと)
東京から京都へやってきた主人公・菜穂が、街の空気とアートに引き込まれていく物語。
「美術品を目にして、心に刺さるあの感じは、いったいどこからやってくるのだろう」という一節に、美術館に行くたびの自分の感覚を重ねました。
京都の濃密な空気ごと物語に浸りたい方には、特に刺さると思います。
短編集|サクッと読めて、じんわり効く

長編を読み切る自信がない日や、通勤時間に少しずつ読み進めたい日には、短編集がちょうどいいと思います。
原田マハさんの短編集は、1話が短くても余韻はしっかり残るものばかり。
ちなみに、5冊の短編集をまとめて紹介した「原田マハの短編集おすすめ5選」という記事もあるので、あわせて参考にしてみてください。
独立記念日
恋愛、結婚、キャリアの迷い、大切な人との別れ。さまざまな女性たちが、ある出会いや気づきをきっかけに歩き出す姿を描いた24の物語です。
収録作「真冬の花束」にある「命を燃やして生きる」という言葉が、ずっと胸に残っています。
通勤電車で1話ずつ読み進めたい方に、ちょうどいいボリュームです。
〈あの絵〉のまえで
日本各地の美術館に実在する名画を舞台に、就活や恋愛、夢の挫折で傷ついた女性たちが、1枚の絵をきっかけに少しだけ前を向いていく6つの物語。
数日経った後でも、そのうちの1話のセリフがふと頭をよぎります。休日の午後、1〜2時間でさっと読み切りたいときに開いてほしい一冊です。
黒い絵
原田マハさん初のノワール小説集です。
犯罪や人間の暗部を描く、いつものアート小説とはまるで違うひんやりとした読書体験でした。
じわじわと首を絞められるような怖さのある「深海魚」が特に印象的でした。いつもと違う顔の原田マハさんに会ってみたい方は、ぜひ手に取ってみてください。
常設展示室
世界各地の美術館を舞台に、絵との出会いが人生の転機になる6つの物語。
1話15分ほどで読めるので、読みかけの本が積み上がっていたわたしでも、気づいたら全部読み終えていました。
読書習慣をつけたいけど長編を読み切る自信がない、そんな方の最初の1冊にどうぞ。
スイート・ホーム
小さな洋菓子店を営む家族を描いた連作短編集です。
アートも美術館も出てこない、穏やかな日常の物語ですが、読んでいる途中から、もう自分の実家のことを思い出していました。
アート小説とは違うテイストも読んでみたい方には、新鮮に映るはずです。
史実にインスパイアされた人生小説

実在の出来事や時代背景を土台にしながら、ひとりの人間の生き方を丁寧に描いた2冊です。
明治の女性たちの物語を続けて読んだとき、自分が今抱えている悩みが急にちっぽけに思えてきて、少し恥ずかしくなったのを覚えています。
奇跡の人
明治時代の青森を舞台に、弱視の女性教師が、目も耳も不自由な少女に言葉を教えようと奮闘する物語です。
差別を経験したり壁にぶつかったりしながらも信念を手放さない主人公の姿に、読み始めたら深夜1時半まで止まりませんでした。
壁にぶつかっているとき、何かを諦めそうになっているとき、そっと手にとってほしい一冊です。
晴れの日の木馬たち
明治の倉敷で紡績工場で働きながら、ゴッホの絵に心を打たれ「小説を書く」と決意する少女・すてらの物語。
もっとたくさんの本を読みたいという気持ちが刺激され、ページを閉じたとたん、積読の山から次の1冊を引っ張り出していました。
何かに没頭する感覚を忘れかけている方の背中を、そっと押してくれます。
お仕事・人生を後押しする物語

アートが前面に出てこない分、今の自分の暮らしや仕事にまっすぐ重なってくる2冊です。
アートという共通の物差しがない分、読みながら何度も自分の仕事のことを考えさせられました。
風のマジム
沖縄の南大東島を舞台に、ゼロからラム酒づくりに挑むアラサー女性の物語。
30歳になった今読み返したからこそ刺さるものがあり、思わずラム酒を飲めるお店を探してしまいました。
同世代の女性が頑張る姿から力をもらいたいとき、開いてほしい一冊です。
総理の夫
日本初の女性総理大臣となった妻を支える夫の視点で描かれる政治小説です。
政治の緊張感と、夫婦の間に流れる穏やかな愛の対比が心地よく、翌朝は少し背筋を伸ばして出勤したくなりました。
働く女性を応援する物語を探しているなら、まず読んでほしい一冊です。
翼をください
第二次世界大戦の開戦が迫るころ、日本の飛行機として初めて世界一周飛行を成し遂げたニッポン号をめぐる物語です。
新聞記者の翔子が一枚の古い写真を追いかけていくうちに、自由と平和を願った人たちの姿が浮かび上がってきます。
飛行機が国から国へと渡っていくので、読んでいるあいだは自分も一緒に世界を旅している気分になれました。
キネマの神様
映画好きの父・ゴウちゃんと、会社を辞めることになった娘・歩を中心に進む物語です。
父がインターネットに書きはじめる映画評がまっすぐで、読んでいるうちにこちらまで映画が観たくなってきます。
好きなものについて語りたくなる人や、文章を書くのが好きな人に届いてほしい一冊です。
どれから読む?タイプ別おすすめ3パターン
17冊もあると、結局どれから読めばいいのか迷ってしまいますよね。
わたしなりに、読者タイプ別のおすすめをまとめてみました。
美術館が好きな方には、デトロイト美術館の奇跡や〈あの絵〉のまえでがおすすめです。実在の美術館や絵をめぐる物語なので、ページを閉じてすぐ、次の休日の美術館巡りの計画を立てたくなります。
仕事や日々に少し疲れている方には、総理の夫や奇跡の人、風のマジムを。信念を持って前を向く人物たちの姿を追ううちに、気づいたら背筋がすっと伸びていました。
短い時間でさっと読みたい方には、デトロイト美術館の奇跡や常設展示室、独立記念日のような短編集をおすすめします。1話ずつ区切りながら、自分のペースで読み進められます。
大きな夢に踏み出したい方には、翼をくださいを。空をめざした人たちの姿を追ううちに、自分の「いつかやりたいこと」を思い出させてもらえます。
好きなものがある方には、キネマの神様を。誰かが本気で語る言葉に、こちらまで動かされていく感覚を味わえます。
正直に言うと、今のわたしなら真っ先に『総理の夫』を読み返すと思います。仕事に少し疲れているときこそ、効いてくる一冊だからです。
まとめ

原田マハさんの作品は、アートに詳しくなくても、するりと物語の中に連れていってくれます。読み終えるたびに、少しだけ自分の世界が広がったような気がします。
ひとつだけ、原田マハさんの作品ではないのですが、あわせておすすめしたい本があります。
恩田陸さんの『蜜蜂と遠雷』です。原田マハさんが「絵」を言葉にしてくれるように、この本は「音」を言葉にしてくれます。
アート小説で味わったあの興奮を、そのまま音楽で味わえた一冊でした。
気になる1冊が見つかったら、まずは薄めの短編集から手に取ってみてください。
それぞれのレビュー記事にはもう少し詳しい感想も書いているので、気になった作品があれば、あわせてのぞいてみてください。



















