アートで世界は変えられる?原田マハ『アノニム』が映画みたいな小説だった

読書

今回ご紹介する『アノニム』は、アート×ミッション×チームという要素が全部詰まった、映画みたいに読める1冊でした。

ネタバレなしで、正直な感想をお届けします。

  • 『アノニム』はどんな小説?
  • チーム感が気持ちいい、オーシャンズ系の面白さ
  • 英才というキャラクターが、忘れられない
  • アノニムの信念がかっこいい
  • ジャクソン・ポロックというアーティスト
  • こんな人に読んでほしい

『アノニム』はどんな小説?

舞台は香港。ジャクソン・ポロックの幻の傑作「ナンバー・ゼロ」が、オークションにかけられることになります。

そこに動き出すのが、7人の仲間で構成された謎の集団「アノニム」

彼らは、アートを守るためにあるミッションを計画します。

一方、香港の狭いアパートに暮らすアーティスト志望の高校生・張英才(チョン・インチョイ)のもとに、アノニムから一通のメッセージが届きます。

「本物のポロック、観てみたくないか?」

その言葉に引き込まれるように英才は取引に応じ、物語は動き始めます。

ジャクソン・ポロックについての知識がなくても大丈夫。
私自身、名前は知っている程度でしたが、まったく問題なく楽しめました。

むしろ読み終わったあとに、このアーティストのことをもっと知りたいと思えるのが、原田マハさんの小説のすごいところだといつも感じています。

チーム感が気持ちいい、オーシャンズ系の面白さ

この小説の最大の魅力のひとつは、読んでいてとにかく「映画みたい」という感覚になること。

アノニムのメンバー7人は、グローバルな顔ぶれで、それぞれが専門スキルを持つスペシャリストです。

オーシャンズ11や8のような、チームが一つのミッションに向かっていくあのワクワク感に近い読み心地があります。

メンバーたちの会話はどこか洗練されていてキザで、まるで字幕を追いながら映画を観ているような気分になります。

ひとつ正直に言うと、中国語名の登場人物が多く、それがなかなか覚えられなくて、最初は読み進めるのに少し苦労しました。

でも慣れてくると、そのグローバル感がかえってリアルで、世界の裏側で何かが動いているような臨場感に変わっていきます。

アート×謀略×チームワークという組み合わせに少しでもピンときた方は、ぜひ第1章だけでも読んでみてください。きっとそのまま止まれなくなると思います。

英才(インチョイ)というキャラクターが、忘れられない

アノニムのメンバーたちも魅力的なのですが、私が心を動かされたのは、高校生の張英才(チョン・インチョイ)というキャラクターです。

香港の狭いアパートの一室で、アーティストになるという夢を抱えながら暮らしている少年。

自信家なのに、どこかまだ自分の輪郭がはっきりしていない。でも大好きなアートのことになると、全力でのめり込んでいく。

その純粋さが、ページを追うごとに愛おしくなっていきます。

そして物語のクライマックスで彼が見せるある場面。

読みながら電車のなかで、気づいたら背筋がすっと伸びていました。

「一人ひとりが動くことの意味」について、これほど真正面から語りかけてくれる言葉は久しぶりでした。

ネタバレになるので詳しくは書きませんが、社会や政治のことを考えるとき、ふと思い出してしまうような言葉です。

アノニムの信念が、かっこいい

アノニムという集団が持つ信念は、シンプルだけど力強いものです。

アートで誰かの人生を変える。
誰かの人生が変われば、ひょっとすると、この世界も変わるかもしれない。

アートが世界を変えられるかどうか、正直なところわかりません。

でも、「変えられるかもしれない」と信じてアクションを起こすことの大切さを、この小説は静かに語りかけてきます。

アノニムのリーダーであるジェットを通して、そして原田マハさん自身の言葉を通して、アートへの強い愛と信頼がにじみ出てくると感じました。

アートオークションのシーンでは、巨額のお金が動く世界に渦巻く思惑や駆け引きが描かれていて、「オークションってこういう世界なんだ」と新鮮な発見もありました。

香港の高級ホテルや超豪邸が次々と登場して、普段の生活とはまったく違う次元を、のぞき見しているような感覚になります。

ジャクソン・ポロックというアーティスト

この小説を読む前、私のポロックに関する知識は「キャンバスに絵の具を垂らす独自の技法を生み出した人」くらいのものでした。

でも物語を通じて、ポロックが「ピカソを超えたい」という強い衝動と葛藤を抱えながら、自分にしかできない表現を模索し続けた人物だったということを知りました。

どれだけ行き詰まっても、動き続けた人。

小説のなかで印象に残ったフレーズのひとつが、「目の前にドアがあるなら、ノックし続ける」という言葉です。

アーティストの話ですが、仕事でも、やりたいことでも、自分に言い聞かせたくなる言葉でした。

アート小説の面白さは、読むことが作品や作家への入口になってくれるところ。

原田マハさんの本は、読むたびにひとりのアーティストについてもっと知りたくなる、その繰り返しが心地よくて好きです。

ポロックについてもっと知りたくなったら、『13歳からのアート思考』も合わせて読んでみることをおすすめします。
ポロックを扱った章があり、より深く理解できると思います。

こんな人に読んでほしい

最後に、特にこんな方にこの本をおすすめしたいと思っています。

  • 映画みたいにスリリングな小説を読みたい
  • アートに興味はあるけど、難しい本は苦手
  • 「自分ひとりが動いたところで何が変わるんだろう」と思うことがある
  • 原田マハさんの他の作品(『楽園のカンヴァス』など)が好き

アートの知識がまったくなくても、エンタメとして純粋に楽しめます。

でも読み終わったあとに、アートや、世界への関わり方について、何かが少しだけ変わるような感覚を残してくれる1冊です。

まとめ

原田マハ『アノニム』は、アート×チームミッションという構成で、映画を観ているような読み心地の1冊です。

グローバルな登場人物、オークションの裏側、そして香港という街の空気。
非日常感がたっぷりで、週末の読書にぴったりだと感じました。

そして何より、「自分ひとりが動いたところで何が変わるんだろう」と思うとき、この物語の言葉が静かに背中を押してくれます。

アートを通じて社会や世界への見方が少し変わる、そういう体験を届けてくれる本です。

気になった方は、ぜひ手に取ってみてください。

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