原田マハ『風神雷神』レビュー|読むと世界が広がる歴史アート小説

読書

「最近、自分の世界が狭くなってきたな」と感じることはありますか?

そんな人におすすめしたいのが、今回紹介する、原田マハさんの長編小説『風神雷神』(上下巻)

読み終えたとき、久しぶりに「もっと知りたい」という気持ちが溢れてきて、物語の舞台である戦国時代について色々と調べました。

この記事では、私が実際に読んで感じたことを、ネタバレに配慮しながら正直にお伝えします。

  • 日本絵画や戦国時代の歴史に興味がある方
  • 堅苦しくない歴史小説を探している方
  • 忘れていた好奇心を取り戻したいと感じている方

そんな方には、特に刺さる一冊だと思います。

『風神雷神』ってどんな小説?

原田マハさんといえば、美術と小説を融合させた「アート小説」の第一人者。

『楽園のカンヴァス』や『暗幕のゲルニカ』でもその真骨頂を発揮していますが、『風神雷神』は舞台が戦国時代の日本にまで遡ります。

物語の中心にいるのは、絵師の俵屋宗達と天正遣欧少年使節のひとり、原マルティノ。

日本とヨーロッパという遠く離れた世界が、「絵」というひとつのテーマで交差していきます。

イタリアの画家・カラヴァッジョも物語に絡み、読んでいるうちに「歴史ってこんなに面白いんだ」と思わせてくれます。

フィクションではありますが、史実のエピソードが丁寧に織り込まれていて、教科書ではさらっとしか書かれていなかった出来事が、現実的に迫ってきます。

上巻の感想|好奇心の扉が次々と開いていく

上巻を読んでまず驚いたのは、情報量の豊かさです。

日本画のこと、戦国時代の政治、ポルトガルからやってきた宣教師たちの熱意、そしてキリスト教と絵画の関係。

上巻だけでこれだけのことが、自然に頭に入ってきます。

特に印象的だったのが、マルティノが聖母子像を初めて見る場面です。

絵の中のマリア様が本当に浮かび上がってくるんじゃないかと、驚きと興奮で言葉を失うシーン。

そのときはじめて、「当時の人々にとって絵とは、神の存在そのものだったんだ」ということが腑に落ちました。

頭ではわかっていたはずなのに、物語を通じて感じると、まるで自分がその場にいるような臨場感があります。

マルティノがラテン語やポルトガル語を習得していく速さや、学問への真摯な向き合い方は、読んでいてこちらの背筋も伸びてきます。

私も貪欲に打ち込める何かがほしい!」と素直に思いました。

片道約3年の航海で海を渡った少年たちのことを、日本史の授業で聞いたことあるなくらいにしか思っていませんでしたが、この小説を読んでからはその史実の重さがまったく違って見えます。

海の向こうには大きな滝があると信じられていたような時代に、未知の大陸へ船を出す。

そのワクワクと恐怖が混ざった感覚が、読んでいる私にもじわじわと伝染してきました。

また、織田信長の描かれ方も面白かったです。

豪快で、新しいものに目がなく、欲しいものは何としても手に入れようとする。

その強欲さと強さが、宗達の目には憧れとして映っている。

「こういう人がいるから時代が動くんだ」と、歴史の必然を感じました。

下巻の感想|2人の天才が「運命」で交差する

下巻では、物語のキーになるカラヴァッジョが、最後にほんの少ししか登場しないことも驚きでした。

でも、その一瞬の場面に、すべてが凝縮されています。

宗達と、カラヴァッジョ。
日本と、イタリア。

時代も言葉も違う2人が「絵」への同じ熱量で共鳴し合う。

原田マハさんが「運命(さだめ)」と表現した、その言葉がすとんと心に落ちました。

遥かな海の向こうで、同じくらい絵に情熱を燃やしている同世代の少年がいる。

それだけで、なんだかロマンティックで、胸が締め付けられる気持ちになりました。

一方で、彼らが帰国した後にキリスト教が禁教になっていくという史実を踏まえると、読後には少し切なさもありました。

あれだけの情熱と覚悟を持って海を渡った4人と宗達が、その後どんな人生を歩んだのか。本を閉じた後も、ずっと気になってしまいます。

読みながら、風神雷神図屏風や宗達の絵を観れる場所を調べました。

読んで、実際にそのアートを観に行きたくなるのが、原田マハさんの作品の好きなところのひとつです。

ちなみに、『風神雷神図屏風』は京都国立博物館にあるとのことで、ぜひ行ってみたいです。

こんな人に特におすすめしたい

『風神雷神』は「歴史小説」というジャンルに少し構えてしまう人にこそ、読んでほしい一冊です。

専門知識がなくても、絵が好きじゃなくても、読み進めるうちに自然と引き込まれます。

  • 毎日がルーティン化してきて、何か刺激がほしいと感じている
  • 子どもの頃みたいな「純粋な好奇心」を取り戻したい
  • 堅苦しくない形で日本史や西洋美術に触れてみたい
  • 読んだ後に「行きたい場所」や「調べたいこと」が増える本を探している

読書って、体は動いていないのに、確実に世界が広がるなとあらためて思いました。

忙しい毎日の中でも、寝る前の30分、電車の中の15分。

そんなすき間時間でも、少しずつ読み進めると、気づいたら上下巻を読み終えていると思います。

まず上巻だけでも手に取ってみてください。第一章を読み終えるころには、結末が気になって仕方なくなっているはずです。

まとめ|「知る喜び」を思い出させてくれる一冊

『風神雷神』は、読んでいる間も、読み終えた後も、ずっと何かをくれる小説でした。

日本絵画、戦国時代、宣教師、ヨーロッパ。

バラバラに見えるピースが、ひとつの物語の中で鮮やかにつながっていく快感は、エンターテインメントとして純粋に楽しめます。

それだけでなく、マルティノや宗達たちの「知りたい、見たい、感じたい」という真っ直ぐな情熱が、日常の忙しさの中で少し眠っていた自分の好奇心を、そっと揺り起こしてくれます。

原田マハさんの他の作品が気になった方は、同じくアート×歴史小説の文脈で読める『楽園のカンヴァス』もあわせておすすめです。

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