今回の記事でわかること
- 『暗幕のゲルニカ』のあらすじとどんな人に向いている本か
- 2つの時代が交錯する構成の面白さ
- ヨーコとドラ、二人の「強い女性」から受け取ったもの
- アートが持つ力について考えさせられたこと
「アートって、結局きれいなものを眺めるだけじゃないの?」
正直、以前の私はそう思っていた部分がありました。
美術館には行くし、好きな絵もある。
でも、アートが現実の政治や戦争と地続きになっている、という感覚はどこか遠かったんです。
原田マハさんの『暗幕のゲルニカ』を読んで、その感覚が根底から覆されました。
1枚のアートが戦争に対してできることは何か?アートが持つ力について考えさせられた一冊です。
『暗幕のゲルニカ』ってどんな本?あらすじ紹介

舞台は2つの時代が同時進行します。
ひとつは2003年のニューヨーク。
国連の安保理理事会が開かれ、米国務長官がイラク攻撃を宣言しようとしていました。
その会場の背後には、ピカソの代表作「ゲルニカ」のタペストリーが飾られているはずだった——が、なぜか暗幕で覆われていました。
その事件を軸に、MoMAのキュレーターである日本人女性・瑶子(ヨーコ)が動き出します。
もうひとつは1937年のパリ。
スペインのゲルニカという街が、ナチス・ドイツとファシスト政権による無差別爆撃に遭った時代。
ピカソの愛人であり写真家でもあったドラ・マールが、歴史的名作「ゲルニカ」が生まれる瞬間を傍らで見つめています。
この2つの時代が章ごとに交互に描かれ、後半にかけて少しずつ重なり合っていきます。
アートサスペンスというジャンルにカテゴライズされますが、一般的にいわれるサスペンスのような怖さはないと思います。
戦争・平和・人間の強さと弱さまで描かれている、読み応え抜群の作品です。
「難しそう」と思ったあなた、大丈夫です。
ピカソやゲルニカについての予備知識はなくても十分楽しめます。
むしろ、読んだあとに「本物を見てみたい」と思わせてくれる本です。
タペストリーに暗幕をかけるだけで、世界が動く|アートの力を思い知る

冒頭の「暗幕事件」を最初に知ったとき、物語の中でも触れられていましたが、正直こんなふうに思いました。
「タペストリーに布をかけただけで、そんなに大騒ぎすることなの?」と。
でも、読み進めるにつれてわかってきます。
あの行為が、いかに「見せたくない」という意図を可視化してしまったかを。
反戦のシンボルであるゲルニカを覆い隠すことで、むしろその絵が持つ力が、世界中の目に訴えかけることになったんです。
アートには、ロジックを超えたところで人の感情を動かす力がある——『暗幕のゲルニカ』はそれを、フィクションの力で証明してみせます。
しかも皮肉なのは、反戦のシンボルであるゲルニカの周囲で、テロや暴力や陰謀が渦巻いていること。
この構造自体が、現実の歴史に根ざしています。
アートが戦争を止めることはできないかもしれない。
でも、アートは人の目を覚まさせることができる。
この本はそれを、700ページ弱かけて静かに、力強く語ってくれます。
ヨーコという女性が、かっこよすぎた

現代パートの主人公・瑶子(ヨーコ)は、ニューヨーク近代美術館(MoMA)に勤めるキュレーター。
ピカソへの愛と敬意、そして自分の専門性への確固たる自負を持つ女性です。
彼女が魅力的なのは、「強い」だけじゃないところ。
困難に直面するたびに迷い、怖がり、それでも動く。
ネタバレになってしまうので詳しくは書けませんが、危機的状況に陥っても、自分よりもゲルニカを守り抜くという強い決意。
同じことをやるのは無理だと思います、正直。
でも、何かに、これほどまでに熱量を持てること。
命よりも大切と感じられるものと出会えること。
フィクションと頭ではわかっていても、それが羨ましいと思ったし、自分もそういう何かを探したいと思いました。
「自分が本当に熱くなれるものって、何だろう」そんなふうに思う方に、ぜひ読んでほしいです。
ドラ・マールというもう一人の主人公|強さと寂しさの間で

1937年パリを生きるドラ・マールは、実在の人物です。
写真家として、ピカソの愛人として、「ゲルニカ」誕生の現場に立ち会った女性。
カフェのテラスで煙草をくゆらせながらワインを傾けるドラの姿を想像すると、とにかくかっこいい。
「ピカソという偉大な男に泣いてしがみつく女にはなりたくない」という矜持が、文章の端々からにじみ出ています。
ゲルニカの制作過程を間近で写真に収められる自分への誇りも繰り返し描かれますが、そりゃそう思うよな、とこちらも素直に納得してしまいます。
でも同時に、子どもを作った愛人への嫉妬や、新しい女の存在に揺れる心も、丁寧に書かれています。
強さを演じながら、内側では寂しさや愛おしさを抱えている。
その人間らしさが、ドラをぐっとリアルな存在にしています。
「強くいなきゃ」と思いながら、どこかで誰かに甘えたいと感じている。
そんな矛盾を、誰しも少なからず持っているはずです。
ドラの物語を読むと、その矛盾を持っていることは弱さではないと、そっと教えてもらえる気がします。
原田マハさんの筆力は本当にすごくて、実在したドラとピカソの日常が、まるで覗き見しているかのようにリアルに迫ってきます。
「マハさんも実際には見ていないのに、きっとこうだったに違いない」と思わせてしまう力に、ただただ脱帽しました。
ドラのことが気になったら、彼女が実際に撮影した写真も検索してみてください。
フィクションと現実がつながる瞬間、鳥肌が立つと思います。
2つの時代が「つながる」瞬間の震え|構成の妙と読み応え

この小説の構成が、本当によくできています。
序盤は「2003年のNY」と「1937年のパリ」が完全に別の物語として進みます。
でも中盤を過ぎたあたりから、少しずつ2つの時代がリンクし始めます。
あるエピソードが別の時代の出来事と呼応し、ある人物が別の時代の誰かとつながっていく。
詳しくは書けませんが、鳥肌が立って、涙がじわっと出て、最後には温かい気持ちになる——そういう体験がこの1冊の中に詰まっています。
ナチスやファシストたちの恐ろしさが、パリ市民の目線で描かれる場面も、妙にリアルで怖かったです。
歴史の教科書で知っていることと、物語の中で追体験することは全然違います。
「平和であることは、当たり前じゃない」という感覚を、久しぶりに強く持ちました。
アートサスペンスとして読んでも、歴史小説として読んでも、女性の生き様を追う物語として読んでも面白い。これだけ多層的に楽しめる小説は、なかなかないのではと思います。
少し長めの本なので、週末の朝、コーヒーを淹れてゆっくりと読み始めるのがおすすめです。読み出したら、きっと止まらなくなるはずです。
まとめ|この本が残してくれたもの

読み終えた後、私のやりたいことリストに「スペインへ行って、本物のゲルニカを見る」が追加されました。
世界のあちこちで戦争や紛争のニュースが流れる今、「自分には関係ない」と思考を止めてしまいそうになることがあります。
でもこの本を読んで、時代も国境も超えて、アートと人間の意志はつながっているんだと気づかされました。
「面白い本が読みたいけど、どれにしようか迷っている」というあなたに、自信を持っておすすめできる一冊です。
特に、アートが好きな人、強く生きたい気持ちを持っている女性には刺さると思います。
アートが持つ力を、ぜひ自分の目で確かめてみてください。


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