原田マハ『翼をください』感想|「空から見れば、国境などない」と教えてくれた一冊

生き方に効く本

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書店に立ち寄ったとき、新装版として平積みになっている本に目が留まりました。

原田マハさんの作品はこれまでにも何冊か読んできたつもりだったのに、そのタイトルはわたしにとって初めて見るものでした。

『翼をください』

知らない原田マハ作品が、まだあったんだ。そんな小さな驚きに引き寄せられて、気になって手に取りました。

好きな作家の作品を、もう全部知っているつもりでいたのに、まだ知らない一冊があった。そんな瞬間って、なんだか少し得をした気分になりませんか?

わたしにとってこの日の書店は、そんな小さな発見をくれる場所でした。今回は、その『翼をください』を読んで心に残ったことを、素直な気持ちのまま綴っていきます。

(これまで読んできた原田マハさんの作品は、こちらの記事にまとめています。)

『翼をください』はどんな本?|空をめぐる物語

本屋で、新装版の平積みに出会った

本棚から本を選んでいる女性

『翼をください』は、毎日文庫(毎日新聞出版)から新装版として刊行されている一冊です。

書店の平積みで見かけたのは、そのときが初めてで、気になって手に取りました。物語の舞台は空、それも世界一周飛行という、大きな夢をめぐる一冊です。

なかなかの長編なので、家で少しずつ、一週間ほどかけて読みました。

普段の生活の中では、なかなか世界一周なんて言葉を口にする機会はありません。

それでも、その響きだけでどこか心が浮き立つのは、わたしだけではないと思います。

あらすじ

物語は、新聞記者の翔子が一枚の古い写真を手にするところから動き出します。

そこに写っていたのは、第二次世界大戦の開戦が目の前に迫っていた時期に、日本の飛行機として初めて世界一周飛行を成し遂げたニッポン号でした。

しかも写真の片隅には、誰なのか分からない人影が写り込んでいます。

伝説と呼ばれた女性パイロットなのではないか。翔子はその可能性に引っぱられるように、写真の向こう側を追いかけはじめます。

自由と平和を強く願いながら、歴史の暗がりへ消えていった翼の話です。

翔子が最後に知った事実は、実際に本を開いて確かめていただきたいので、あらすじとしてお伝えするのはここまでにしておきます。

飛行機が国から国へと渡っていくので、読んでいるあいだは自分も一緒に世界を旅している気分になれます。

降り立つ場所が変わるたびに、景色も、出会う人も変わっていく。

冒険物語としての手ざわりがしっかりあって、そこがまず単純に面白い一冊でした。

もうひとつ。原田マハさんといえば、史実をもとにフィクションを組み立てる作風でおなじみですが、あとがきによれば、その手法で書かれた最初の作品がこの『翼をください』なのだそうです。

アート小説で読んできたあの書き方が、ここではまるごと空の物語に向けられています。

マハさんの作品を追いかけてきた人ほど、ここから始まっていたのか、と思える一冊です。

気になった方は、こちらから覗いてみてください。

心に残った場面|わたしが線を引いたところ

「空から見れば、国境などない」

作中に出てくる、「空から見れば、国境などない」という言葉(原田マハ『翼をください』より)に、わたしは強く心を動かされました。

領土をめぐる紛争や戦争のニュースが、今も世界のどこかから流れてくる時代に生きているからこそ、この一文がまっすぐ届きました。

空を飛ぶ人にしか見えない景色があって、そこには本来、線なんて引かれていない。

頭では分かっているつもりでも、日々の生活の中では忘れがちな感覚を、静かに思い出させてもらった場面でした。

わたしたちは普段、国とか、地域とか、いろいろな線引きの中で物事を考えがちです。

けれど地上を離れて、雲の上から地球を見下ろしたら、その線はきっと見えないはずです。

この一文を読んで、自分がいかに小さな枠の中で世界を見ていたかに、はっと気づかされました。

誰かと自分を隔てているように見える境界線も、視点を変えれば消えてしまうものなのかもしれません。

そしてこの本には、世界一周という平和だからこそ挑めることの裏側に、戦争がすぐそこまで迫っている時代が描かれています。

その対比が、読んでいるあいだずっと印象に残りました。

空の上には線などないのに、地上では線をめぐって争いが起きようとしている。

同じ物語のなかに、その両方が置かれていることの重さを思います。

「ダメでもともと。志願なさい。」と、背中を押した母

カメラマンとして世界一周飛行に強く憧れていた山田は、それでも一歩を踏み出せずにいました。

搭乗できる人数には限りがあるし、志願したところで選ばれる保証もない。何より、母に心配をかけたくない。そんな迷いを、ずっと抱えていました。

そこへ母がかけたのが、「ダメでもともと。志願なさい。」という言葉(原田マハ『翼をください』より)でした。

息子の夢を後押しする、迷いのない意志。その一言に込められた愛情の深さと、それを言葉にできる強さに、読みながら目がうるんでしまいました。

愛情の表し方にも、いろいろな形があるのだと教えてもらった場面です。

やってみたい気持ちがあるのに、失敗するかもしれないからと、自分でブレーキをかけてしまうこと。

そんな迷い方をしてしまう人は、きっと少なくないと思います。

だからこそ、迷いなく背中を押し切れる強さに、憧れずにはいられませんでした。

エイミーという、凛とした空の女神

空を飛んでいる飛行機

物語に登場するエイミーという人物も、忘れられません。

空を飛ぶことへの愛情と情熱の深さ、強運と呼びたくなるような巡り合わせ、そして何より、芯の通った凛とした佇まい。

まさに空の女神と呼びたくなるような存在でした。

活躍する女性がまだ少なかった時代に、エイミーのような女性がいたという事実そのものに、同じ女性として素直に勇気をもらえます。

かっこいいと、憧れずにはいられませんでした。

自分の意志で、自分の道を選び取っていく姿を見せてもらえると、こちらまで背筋が伸びるような気持ちになります。

夢に向かって突き進む女性を描いた作品としては、『風のマジム』の感想もあわせて読んでいただけたら嬉しいです。

山田が世界一周飛行のメンバーに選ばれる瞬間も、心に残っています。

この場面のことは、物語の冒頭ですでに示されています。

それでも、山田の視点でその瞬間を追っていくと、分かっているはずなのに気持ちが昂ってしまって、わたしも一緒になって嬉しくなりました。

先が分かっていてもなお心が動かされるというのは、それだけ人物の描き方が丁寧だと思います。

読んだあとの、小さな変化|世界はもともと一つだった

飛行機が飛んでいる青空

読み終えてから、少しだけ考え方が変わった気がします。

日本人だろうが、どこの国の人だろうが、どこに住んでいようが、わたしたちはみんな同じ地球に住む仲間なのだということ。

頭では分かっていたはずのことを、この本を通して改めて実感しました。

大げさな変化ではないけれど、日々のニュースを見る目が、少しだけやわらかくなりました。

世界は本来、一つのものでした。国境も、言葉の違いも、後から人間が引いた線にすぎません。

そう思うと、遠く離れた場所で起きている出来事も、どこか自分と地続きのものに感じられるようになりました。

この感覚は、本を閉じたあとも、日常のふとした瞬間に静かに戻ってくるものでした。

派手な変化ではなく、心の片隅に、小さな灯りがひとつ増えたような、そんな感覚です。

こんな人におすすめ|飛行機と旅が好きな人へ

『翼をください』は、飛行機や世界旅行が好きな人にこそ読んでほしい一冊です。

特に、女性の読者におすすめしたいと思っています。

週末、ふらっと一人旅に出かけたくなる気持ちがある人には、心に留めておいてほしい一冊です。

興味を持たれた方は、こちらからどうぞ。

友人と予定が合わせづらくなってきて、一人で過ごす週末が増えたという人も、多いのではないでしょうか。

そんな週末に、遠くの空を思いながらページをめくる時間は、ちょっとした一人旅の気分を味わわせてくれます。

旅行の予定がなくても、本の中でなら、いつでも飛び立てるのがいいところです。

荷造りも、飛行機のチケットもいりません。本を開くことが、そのまま小さな旅の始まりになってくれます。

働く女性を描いた作品としては、『総理の夫』の感想もあわせてどうぞ。

エイミーのように、自分の意志で人生を切り拓く女性の姿を、また違った角度から楽しんでいただけます。

詳しい内容が気になる方は、こちらからご覧ください。

むすび|空を見上げてみる週末に

普段は下を向きがちな毎日でも、たまには空を見上げてみる週末があってもいいのかもしれません。

『翼をください』は、そんな時間にそっと寄り添ってくれる一冊でした。

国境も、日々の忙しさも、一度空の上から眺めてみたら、思っていたより小さなものなのかもしれません。

そんなことを、この一冊は静かに教えてくれました。気になった方は、ぜひ手に取ってみてください。

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