原田マハ『楽園のカンヴァス』の面白さは?|原田マハ代表作をネタバレなしでレビュー

アートに出会う本

※本記事にはアフィリエイトリンク(PR)を含みます。

原田マハさんの作品の中でも、かなり有名な一作としてよく名前が挙がる『楽園のカンヴァス』。

気になってはいたものの、なぜかなかなか手が伸びずにいました。

今回、ようやく手に取ってみたら、予想以上に引き込まれて、気づけば2日で一気に読み終えていました。

次はどうなるのか気になって、ページをめくる手が止まらなかったんです。

実在する美術館や画家が登場するので、いつも以上に物語の中に入り込みやすかったのも大きかった気がします。

読み終えたいまでも、織絵の絵の見方や、「情熱」という言葉が、ふとした瞬間に頭に浮かんできます。

この記事では、真贋判定の結末や物語の結末には触れていません。安心して、最後まで楽しみに取っておいてもらえたらうれしいです。

『楽園のカンヴァス』はどんな本|MoMAのキュレーターと、7日間の真贋勝負

2冊の開かれている本

舞台はスイス。伝説的なコレクターが暮らす大邸宅に、MoMAのキュレーターであるティムと、日本人研究者の織絵が招かれます。

二人に与えられたのは、アンリ・ルソーの代表作『夢』に酷似した一枚の絵の真贋を、7日間で見極めるという依頼でした。

織絵はルソー研究の専門家、ティムはMoMAのキュレーターというように、それぞれ違う立場から一枚の絵に向き合うところも、この物語の見どころです。

手掛かりになるのは、一冊の古書。そこに書かれたルソーの物語を読み進めながら、二人はときにライバルとして絵に向き合っていきます。

読み進めるうちに、ルソーという画家そのものにも、興味がわいてきました。

絵をめぐる陰謀や、ルソーという画家の生涯も並行して描かれていて、物語に厚みがありました。

現実のティムと織絵の駆け引きと、本の中で語られるルソーの人生。どちらの続きも気になって、最後までワクワクしながら読み進められました。

第25回山本周五郎賞を受賞した作品で、文庫で読むことができます。読み終えたあとも、しばらく物語の余韻が残りました。

織絵の「絵の見方」がおもしろい|鳥は籠の中ではなく、籠の向こうにいるのかも

美術館で絵を観ている女性

物語の中でも、とくに印象に残ったのは織絵の絵の見方でした。彼女の視点を通して、アート鑑賞のおもしろさをあらためて教えられた気がします。

大原美術館のピカソと、あの読み替え

序盤に出てくるのは、大原美術館にあるピカソの『鳥籠』という絵です。

織絵はその絵を見て、鳥は籠の中にいるのではなく、籠の向こうにいる鳥が、籠越しに見えているのかもしれない、と捉えていました。

純粋に、おもしろい見方だなと思いました。同じ一枚の絵でも、見る人によってこんなに違う捉え方ができるのだと、新鮮な驚きがありました。

普段、絵を見るときは「何が描かれているか」だけを追ってしまいがちです。

でも、視点を変えるだけで、こんなに違う物語が見えてくるのだと気づかされました。

娘の心境と絵を重ねる|アート鑑賞って、こういうことか

織絵はさらに、自分の娘としての立場や心境を、絵の見え方に重ね合わせていきます。

そこから新しい気づきを得ていく過程が、素敵な絵の見方だなと思いました。

自分の実体験と、絵の中の世界を重ね合わせられるところが、原田マハさんの作品のすきなところです。読みながら、あらためてアート鑑賞の良さを感じました。

大原美術館には、以前わたしも足を運んだことがあります。

実際に『鳥籠』を目の前にした記憶がふっと蘇ってきて、本を読みながら懐かしい気持ちになりました。

大原美術館の見どころや回り方は、大原美術館の見どころガイドにもまとめています。

織絵のような視点を持てたら、日々の景色も違って見えてくるのかもしれません。織絵の絵の見方には発見がありました。

「情熱を注ぐ」という言葉が残った|1枚の絵のために本気になる人たち

屋外で絵を描く男性

作中でとくに印象に残った言葉が、「情熱を注ぐ」でした。

ルソーが絵を描くことに情熱を注ぐ姿と、ティムと織絵がルソーへ向き合う姿が重なって見えてきます。

たった1枚の絵のために、ここまで本気になれるものなのかと、読みながら何度も胸を打たれました。

この一枚の絵を守るために、自分はどうすべきか。ティムと織絵、それぞれの立場から真剣に向き合う姿が、強く印象に残っています。

「情熱」という言葉の意味をあらためて調べてみると、「ある物事に向かって気持ちが燃え立つこと」とありました(コトバンクより)。

辞書的な意味を知ったところで、何かが変わるわけではないのですが、言葉の輪郭がはっきりした分だけ、作中の二人の姿がより鮮やかに感じられました。

自分は何かに情熱をもっているだろうか、と自問してみましたが、恥ずかしながら、胸を張って答えられるものが、すぐには浮かびませんでした。

何かに情熱を注げるものを、できるだけ早いうちに見つけて、自分の人生のよりどころにしていきたいと思いました。

読んだあとの、小さな変化|MoMAで『夢』の前に立った日

アンリ・ルソー「夢」

読んでいるあいだ、作中に登場するルソーの絵をそのつど検索しては、画面越しに眺めながらページをめくっていました。

実際の作品を思い浮かべながら文章を読むと、想像だけで読んでいたときよりも、物語がぐっと近くに感じられました。

この物語を読んだ後に、実際にニューヨーク近代美術館、MoMAで『夢』を観る機会がありました。

扉が開いた先、正面にその絵が飾られていて、「楽園のカンヴァスの絵だ!」と、思わず声が出そうになりました。

わたしも、その場で心ゆくまで絵を眺めて、静かな時間を過ごしました。本の中で読んだ絵の前に、実際に立てたことがうれしかったです。

あのとき覚えた高揚感は、いまでも鮮明に思い出せます。本を読んでいなければ、きっとこれほどの感動はなかっただろうと思います。

検索画面越しに眺めていた絵と、目の前にある本物の絵とでは、伝わってくる存在感がまるで違いました。

原田マハさんの作品は、この一冊のほかにも読んでいます。MoMAで働く人たちを描いた短編集の感想は、こちらにまとめました。

こんな人におすすめ|マハ作品・アート小説の1冊目に

開いている本

『楽園のカンヴァス』は、原田マハさんの作品を読んだことがない方にも、アート小説をはじめて読む方にもおすすめしたい一冊です。

美術館に行くのがまだ少し敷居高く感じる人にも、絵を見る楽しさを教えてくれる物語だと思います。

何冊も原田マハさんの作品を読んできましたが、その入り口として選ぶなら、この一冊を挙げたいと思っています。読んでよかったと、心から思える一冊です。

マハさんの作品をもっと知りたくなった方には、これまで読んだ作品をタイプ別にまとめた記事もあります。

むすび|次に美術館へ行くとき、絵の前でもう少しだけ粘ってみる

MoMAのアンリ・ルソー「夢」

次に美術館へ行くときは、気になった一枚の前で、もう少しだけ粘ってみようと思います。織絵のように、自分なりの見方を見つけられたら楽しそうです。

『楽園のカンヴァス』は、そんなきっかけをくれた一冊でした。

タイトルとURLをコピーしました